気管支喘息
気管支喘息とは?
定義としては、「気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動を持った気道狭窄や咳で特徴づけられる疾患」と言われています。つまり、空気の通り道(気道)に炎症(ボヤ)が続き、さまざまな刺激に気道が敏感になって発作的に気道が狭くなる(大火事)ことを繰り返す病気です。
よく病院では「炎症」という言葉を使いますが、この炎症とは?というところから説明いたします。炎症は発赤(赤くなる)・熱感(熱をもつ・発熱する)・腫脹(腫れる)、疼痛(痛み)の4つの所見が特徴的な状態です。分かりやすいのは捻挫などで関節炎を起こした場合です。捻挫した足首は、その関節部分が赤く腫れて痛み、触ると熱いという症状があらわれます。
気管支喘息の場合には、痛みこそありませんが、気道粘膜が、赤くなって腫れている状態になっています。炎症により粘膜が腫れ、また気管支周囲の平滑筋が収縮することで空気の通り道が狭くなり、ゼイゼイ、ヒューヒューといった呼吸音が聞こえるようになります。
小児喘息と大人の喘息
喘息は大きく2つに分けられ、概ね15歳までに発症する小児喘息と、成人してから症状が現れる大人の喘息があります。基本的な原因である気道炎症は同じですが、こどもの喘息はダニなどのアレルゲンが原因となって発症することがほとんどですが、大人の喘息はアレルゲン以外に生活習慣やストレスなどの環境因子によって引き起こされるものが半数を占めます。
小児喘息の多くは、2~3歳までに発症し、12~15歳の思春期の頃には軽快してきますが、20~30%の患者さまは成人喘息へ移行していきます。喘息は、年々増加傾向にあり、小児喘息の有病率は約7%、成人喘息は約4%と推察され、日本では400~500万人に達していると考えられ、この30年で約3倍に増加したとも云われています。
喘息による死亡者数
厚生労働省人口動態統計によると、1996年で5995人、2016年は1454人と減少傾向にあります。1995年は、インフルエンザの大流行により死亡者数が7253人と著明に多いですが、全体としては吸入ステロイドの普及により減少しています。
男女別での死亡者数では、2016年(男性:567人、女性:887人)となっており、2002年から女性の死亡者数が多い傾向にあります。
年齢階層別の死亡者数では、年齢階層が上がるごとにその割合は増加し、60歳以上の方で全体の88.1%を占めています。高齢者の方が、体力的に喘息を悪化させやすいことが大きな理由と考えられており、また、吸入ステロイド薬の恩恵を受けられる期間が短いことや、タバコを吸っていた期間が長いことも影響しているとも考えられます。
Q&A ステロイド吸入薬は体に悪いの?
結論から言えば、ステロイド吸入薬は正しく服用すれば副作用はほとんどありません。
まずステロイドとは、もともと人体にある副腎という器官から出るホルモンの種類です。このホルモンには炎症を抑える効果があり、これを薬として投与することにより炎症を抑えることができるのがステロイド薬です。
しかし、炎症を抑えているということは体の免疫力を抑えているので、過剰に使用すると免疫力が低下し、感染症などにかかりやすくなる可能性があります。そのため、ステロイド吸入薬は少量のステロイドを吸入という形で肺や気管支に直接届け、副作用をほとんどなくした上で、喘息の炎症に対して効果的に作用する薬になっています。
症状・身体所見
発作性の呼吸困難感、ヒューヒュー、ゼイゼイという喘鳴が夜間から早朝にかけて多く見られます。咳嗽(せき)や喀痰(たん)も頻発します。喘息発作時の息苦しさはイメージとしては、ねじったストローで吸ったり吐いたりした時の息苦しさに似ています。発作時は聴診器で、笛声音(wheeze)という狭窄音が聴取できます。ガイドラインでは、【①発作性の呼吸困難・喘鳴・咳の反復、②可逆性の気流制限、③気道過敏性の亢進、④アトピー素因、⑤気道炎症の存在、⑥他の疾患の否定
】の6つを参考にして診断するようにとされています。
つまり、「これとこれが当てはまれば絶対に気管支喘息」という診断基準がありません。また、気管支が狭くなる病気は他にも心不全、肺気腫(COPD)、肺炎、咽頭炎、気管支異物などがあるため、気管支喘息は診断が難しい病気と言えます。喘息を正しく診断するためには、詳細な問診が大切となります。『①いつ?②どんな時に?③どのようなことをしたら?④どのような症状が出るのか?』このような質問から、特徴的な所見がみられるかチェックしていきます。
炎症のある気道はとても敏感になっており、様々な原因で喘息となります。アレルゲンである、カビ、花粉、ほこり、ハウスダスト、動物の毛やフケ、ダニなどや、アレルゲン以外であるタバコ、花火や線香の煙、ガス・石油を使った暖房器具や調理器具から出る窒素酸化物(NOx)・イオウ酸化物(SOx)、アルコール、薬物、ストレス、風邪(気道の感染)、気象の変化、運動などを主な原因として発症します。
検査
検査は以下の5つが代表的なものとなっております。
肺機能検査
肺機能検査(スパイロメトリー)といって、『息を吸って吸って、吐いて~』と掛け声をかけられ行う検査があります。しんどいとおっしゃる方も多いですが、これが気管支喘息の診断に重要です。肺機能検査では4つの項目を調べます。
- 1秒率(思い切り息を吐いたときの空気量【努力肺活量】のうち、最初の1秒間に吐き出された量の割合:FEV1%)が70%未満でないか。
- フローボリューム曲線で末梢気道狭窄が見られないか。
- 気道可逆性試験(β2刺激薬の吸入で、1秒量[FEV1]が12%以上かつ200ml以上の改善)
気道を広げるお薬の吸入前後で肺機能検査を行い、薬の効果があるか。この検査で息が吐きにくそうなことを確認し気管支拡張薬(β2刺激薬)を吸入して改善する場合には、気管支喘息と考えられます。但し、繰り返し発作を起こしていて、気管支粘膜が分厚くなってしまっているような人では、気管支拡張薬を吸入しても十分改善しません。 - 気道過敏性試験(ヒスタミン、メサコリン、アセチルコリンなどの吸入でFEV1が20%低下)
気管支喘息発作を起こさせるヒスタミンという薬剤を段階的に濃くしていき、一秒量の悪化を見ることにより、気管支がどれくらい敏感になっているかを判断します。気管支喘息の方は、アレルギー性の気管支炎で気管支が過敏になっているため、健康な方よりも薄いヒスタミン濃度で一秒量が20%以上低下します。
呼気NO濃度検査
呼気NO(一酸化窒素)濃度検査という検査も有用です。吐く息(呼気)中のNO値は気管支の好酸球性の炎症を反映しているため、気道粘膜のアレルギー性の炎症があるかどうかが分かります。10秒ほどゆっくり息を吐いて調べる検査で、安全で負担の少ない検査です。
血液検査
血液検査(RAST値)で、あるアレルゲンに対して反応するIgE抗体を、どのくらいもっているか調べる検査です
喀痰検査
喀痰検査では、痰(たん)の中に増加する好酸球や気管支上皮細胞を調べることで、気道の炎症の程度を知ることができます。
胸部X線、CT検査等
胸部X線写真、胸部CTなどの検査で、喘息と同じような症状を持つ他の呼吸器疾患との見分けや、肺炎などの合併症を知るために行います。
発作時の治療
「喘息予防・管理ガイドライン2018」では、短期作用型β2刺激薬(SABA)の吸入、ステロイドの全身投与、アミノフィリン点滴を用います。大発作・重篤な発作時は、上記に加えて酸素投与、エピネフリン投与、必要に応じた気管挿管、人工呼吸療法も併用します。もし、ご自宅や会社・外出先などで喘息発作が出現した際、呼吸が苦しくて横になれないなど症状が改善しない場合は、すぐに救急外来をご受診下さい。治療は、
- 気管支を広げる薬(短時間作用型β2刺激薬) ※ベネトリン®、メプチン®、
- 気管支筋の緊張をとって気管支を広げる薬(テオフィリン薬) ※ネオフェリン®、
- 気管支の炎症をおさえる薬(副腎皮質ステロイド薬)※ソル・メドロール注®、ソル・コーテフ注®など
を用いて行います。
長期管理(非発作時の治療)
治療ステップに応じて段階的に薬物療法を行っていきます。吸入ステロイド薬が基本となり、抗ロイコトリエン受容体拮抗薬を内服、長時間作用型β2刺激薬(LABA)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)、抗IL-5抗体薬、抗IL-5Ra抗体薬、気管支熱形成術などの治療を行います。
- 気管支の炎症をおさえる薬(吸入ステロイド薬)※フルタイド®、パルミコート®、キュバール®
- 気管支の炎症をおさえる薬(経口ステロイド薬)※プレドニゾロン®、コートリル®
- 気管支の炎症をおさえる&気管支を広げる薬(吸入ステロイド薬・長時間作用型β2刺激配合薬)
※アドエア®、シムビコート®、フルティフォーム®、レルベア®、スピリーバ・レスピマット® - 気管支を広げる薬(長時間作用型β2刺激薬)※セレベント®、ホクナリン®
- 気管支を広げる薬(長時間作用型抗コリン)※シーブリ®、ウルティブロ®、アノーロ®、スピオルト®
- 新たな喘息発作をおさえる薬(抗ロイコトリエン受容体拮抗薬)※オノン®、シングレア®、キプレス®など
これらを用いて長期管理を行います。
ケアのポイント
- ステロイド薬:現在の喘息治療における最も効果的な抗炎症薬となります。吸入ステロイド薬によって健康な人と同じ生活を送ることが目標となります。吸入ステロイド薬は長期的な吸入が必要ですが、全身性の副作用は少ないです。気管支の炎症をおさえ、発作を予防するために、毎日吸入しなければなりませんが、目に見える変化や効果がすぐに表れないため、疎かにせずに継続していくことが大切です。
- リモデリング進行の防止:発作を繰り返したり、発作がないからといって治療を自己中断することで気管支の慢性的な炎症によって気道壁が厚く硬くなり、気管支の内腔が狭くなります。これを『リモデリング』といいます。リモデリングを起こした気道では、不完全で不可逆的(元に戻すことができない)な修復が行われるため、気道の可逆性が低下し過敏性が高くなります。
治療に対しての反応性が下がるため、重症化を招きやすく、喘息の難治化につながります。そのため、リモデリングの進行を防ぐことが重要になります。 - セルフコントロール:喘息はセルフコントロール(自己管理)が基本になります。セルフコントロールが行えるようになるために、喘息の知識、アレルゲンの除去(掃除)、吸入薬の正しい使用、発作時の対処方法、ピークフローの測定、喘息日誌への記載、日常生活上の注意などを理解するなど正しい知識を持つことが大切です。
ぜんそく発作の原因には「風邪、過労、ストレス」も多くなります。日々の生活から予防を行うことで、よりよい生活へ繋げていきましょう。喘息かな?と思ったらはるひ呼吸器病院に相談ください。