慢性閉塞性肺疾患(COPD)

概要

慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)とは、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。2018年7月に死去された落語家の桂歌丸さんが患っていた病気です。
空気の通り道である気道が細くなったり、肺胞(肺を構成しているやわらかい小さな袋)が壊れたりして、空気の流れが悪くなり、息が吐きにくくなります。慢性の咳(セキ)や痰(タン)、身体を動かした時の息切れなどが主な症状となり、タバコの煙を主とする有害物質を長期にわたって吸入することで生じる炎症性の疾患です。

疫学

日本人の40歳以上の人口の8.6%、患者数は約530万人と推定されます(NICE study 2001)。
しかし、2014年の厚生労働省患者調査では、病院でCOPDと診断された患者数は約26万人です。つまりCOPDであるのに受診していない・診断されていない人は500万人以上いると推測され、多くの人々がCOPDであることに気付かないまま生活していると考えられます。
厚生労働省の統計では、2017年のCOPDによる死亡者数は18,523人でした。2011年頃まで死亡者数は上昇していましたが、現在は横ばいとなっています。男性の死亡順位では、悪性新生物(がん)、心疾患、肺炎、脳血管疾患などに続き、第8位となっています。
COPDの患者数は世界的にも増加傾向にあります。COPDに影響する要因として、多くの発展途上国で喫煙率が上昇していること、また世界的にみて、木材や草などのバイオマス燃料に含まれる毒素への曝露があげられています。WHOは、世界中で6500万人が中等度ないし重度のCOPDを有しており(2004年)、2005年には300万人以上がCOPDのために死亡しています。2030年までにCOPDが世界の死因の第3位(死亡原因の8.6%)を占めるようになると推測されています。COPD啓発に向けたさまざな活動行っていくという趣旨のもと、毎年11月中旬の水曜日の一日を世界COPDデーと定めています(GOLDより)。

喫煙とCOPD

喫煙者の15~20%がCOPDを発症すると言われており、COPDの患者の90%以上は喫煙者です。長年にわたる喫煙習慣を背景に、中高年に発症することから肺の生活習慣病といえます。また、非喫煙者でも4.7%の人がCOPDにかかっています。副流煙には喫煙者が吸う主流煙よりも発ガン物質をはじめとする有害物質、タール、トルエン、メタンなどが多く含まれています。喫煙者が近くにいる人は、タバコを吸わなくても喫煙者と同等か、それ以上の有害物質を吸い込んでいるのです。家族がヘビースモーカーであったり、分煙されていない職場で仕事をしている人はCOPDにかかる危険性が高まります。
タバコとCOPDの関連を示す数字として『喫煙指数』があります。

『喫煙指数(ブリンクマン指数)』=1日に吸うタバコの本数×喫煙している年数

例えば、1日に30本、30年間喫煙している場合は、30×30=900で、喫煙指数は900。この指数が400以上で肺がんのリスクが上がり、700以上ではCOPDのみならず咽頭がんや肺がんのリスクも高くなるといわれています。
現在(2017年)習慣的に喫煙している人の割合は、17.7%であり、男女別に見ると男性29.4%、女性7.2%です(厚生労働省国民栄養調査より)。いずれも有意に減少していますが、COPDは20年以上の喫煙歴を経て発症する病気です。日本でも20年以上前の喫煙率上昇の影響がCOPDの死亡率を高めていると考えられます。

肺の変化

肺は気管、気管支(以上を気道といいます)と肺胞(体内に酸素を取り入れ炭酸ガスを排出するための空気を溜める袋状の構造)からできています。肺胞を拡大するとブドウの房のようなかたちをしており、ブドウの柄に当たる部分が空気の出入りする細い気道にあたります。しかし、タバコなどの有害物質を長期にわたって吸い込むと、気道や肺胞の壁に刺激が加わりさまざまな変化が起こります。気道では痰のもとになる粘液を作る装置(腺組織といいます)が発達します。
細い気道では粘液が気道をふさぐ様に溜まり、気管支壁を形成するさまざまな細胞が増加したり大きくなったりしてさらに気道は細くなります。
最も奥に位置する細い気道や肺胞は有害物質吸入の結果、気管支壁が破壊され拡大します。
いったん破壊され拡大した肺の構造はタバコをやめても元には戻らず、古くなったゴム風船のように弾力がなくなり、拡大した部分に吸い込まれた空気はその場所に溜まり、完全には吐き出せない状態となってしまいます。

症状

最初は、坂道や階段を昇るときなど普段より身体を使ったときに感じる息切れ(労作時呼吸困難)で病気を疑う場合が多く、病気が進行すると安静にしていても息切れを感じるようになります。
咳嗽(せき)や喀痰(たん)は、通常、朝起床した直後に悪化します。また、咳と痰は一日中続くこともあります。
COPDは数年かけて進行していきます。患者さまは始め、加齢や体力の低下が原因と考えがちですが、COPDが進行すると、体重の減少が見られたり、肺炎などの感染症にもかかりやすくなります。

診断・検査

  1. 肺機能検査(スパイロメトリー)といって『息を吸って吸って、吐いて~』と掛け声をかけられ行う検査を行います。肺活量などを測定する検査で、COPD の診断に最も重要な検査です。最大限吸いこんだ空気をどれだけ素早く吐き出せるかという指標である1 秒率という検査項目は、気道の細さを数値で表したもので、COPD 診断の決め手となります。
  2. 胸部エックス線にCOPDの所見が現れるのはかなり進行してからとなります。病状が進むと、肺の構造が破壊されてX線の通りが良くなり「肺が黒っぽく写る」「上下方向に肺が引き伸ばされて写る」「心臓が細長く写る」などの特徴が見られます。高分解能CTでは、肺胞の破壊が見られ、肺気腫の部分が黒っぽく(低吸収域)写ります。

COPDの管理目標

壊れてしまった肺を修復する根本的な治療は現在のところありません。COPDの治療としては、症状に応じて薬物療法や運動療法などの総合的な治療(呼吸リハビリテーション)を継続的に実践します。

COPDの管理目標

  1. 症状と生活の質(QOL)を改善する
  2. 運動能力や身体能力を向上させる、または維持する
  3. 増悪を予防する
  4. 疾患の進行を抑制する
  5. 全身併存症や肺合併症を予防する
  6. 寿命を延長する

治療

禁煙

喫煙を続けると呼吸機能の悪化が加速します。COPDに対する最も重要な治療は、禁煙です。気流の閉塞が軽度から中程度のときに禁煙することで、多くの場合は、咳の回数や痰の量も減少し、息切れが現れるのが遅くなります。

薬物療法

治療の中心は気管支拡張薬です。気管支拡張薬には、貼付薬や内服薬もありますが、主に気管支のみに作用し全身的な副作用が起こりにくい吸入薬をよく使います。この薬を使って気道を広げると空気の通りが良くなり、呼吸困難が軽減します。気管支拡張薬には、『β2刺激薬』『抗コリン薬』『テオフィリン』の3種類があります。これらを重症度に合わせて併用します。

  • β2刺激薬(オーキシス®、オンブレス®など):気管支を拡張し、呼吸困難を和らげます。
  • 抗コリン薬(スピリーバ®、シーブリ®など):気道の収縮を予防し、呼吸を楽にします。
  • テオフィリン(テオロング®など):ゆっくり溶ける作用時間が長い薬で、気管支を広げます。

増悪期

感染や大気汚染などがきっかけとなり、COPDが増悪することがあります。その場合は入院して抗菌薬や気管支拡張薬、ステロイド薬などの投与が必要になります。また、低酸素血症を認める場合は酸素療法が適応され、さらに高二酸化炭素血症や呼吸性アシドーシスを認める場合は、換気補助療法(マスク人工呼吸器など)が行われます。極度に重症な方は、手術による治療や肺移植を行うこともあります。

呼吸リハビリテーション

COPDが進行すると呼吸困難の症状から動くことがおっくうになり、運動不足になって運動機能が低下し、呼吸困難がさらに悪化する、生活の質(QOL)が低下するという悪循環になりがちです。このような状態を改善するためには薬物療法に加えて、運動療法(ウォーキングなどの軽い運動や腹式呼吸など)や栄養療法、日常生活の管理など総合的に行うことが重要です。

日常生活の注意点

風邪やインフルエンザをきっかけとして急に悪化することがあります。人混みを極力避け、帰宅後は「うがい」「手洗い」を習慣付けましょう。また、インフルエンザの予防接種や肺炎球菌ワクチンなどの接種が勧められています。

予後

気流の閉塞が軽いうちに禁煙すれば、COPD自体は一般に死を招いたり、重度の症状を引き起こしたりすることはありません。しかし、禁煙を止めないとほぼ確実に症状は悪化します。 COPDは肺の病気ですが、肺ばかりでなく、虚血性心疾患や骨粗しょう症、糖尿病など全身にさまざまな病気を引き起こします。COPDの患者さんは、食事の時も呼吸がつらくなるので、食事摂取量も減ってしまいます。呼吸困難の症状から、身体をさらに動かさなくなり、すると食欲もさらになくなります。肺がうまく換気できずに呼吸筋の仕事量も増加し、身体を動かさないことにより、筋肉も萎縮してしまい、さらに痩せていくという悪循環につながります。
COPDの終末期ではQOLの低下、低栄養の進行、睡眠障害、うつ症状、せん妄状態などが見られます。呼吸困難が強い場合は緩和的なオピオイド(麻薬)の投与なども検討されます。末期状態で急性増悪すると人工呼吸器をつけ、亡くなるまで呼吸器が外れない可能性もあります。症状が安定している時期に患者自身が医師や家族などとよく話し合っておくことが必要です。

ページの先頭へ